マトウダイという魚をご存知でしょうか。見た目がちょっと変わっていて、「的」のような黒い模様があることからその名前がついた魚です。深海に住む魚なので、普段お店で見かけることは少ないかもしれません。
でも実は、この魚は味がとても良くて、特にヨーロッパでは高級食材として扱われています。日本でも釣り人の間では人気があり、食べた人からは「もっと知られてもいい魚」という声もよく聞かれます。
今回は、そんなマトウダイの生態から美味しい食べ方まで、詳しくお伝えしていきます。これを読めば、マトウダイがどんな魚なのか、どこで釣れるのか、そしてどうやって食べるのが一番美味しいのかが分かりますよ。
マトウダイってどんな魚なの?
マトウダイは、見た目がとても印象的な魚です。初めて見る人は、その独特な形にきっと驚くでしょう。体の中央にある大きな黒い斑点が一番の特徴で、これが弓道の的のように見えることから「的鯛(マトダイ)」という名前がついたと言われています。
ただし、「鯛」という名前がついているものの、実際にはマトウダイ科の魚で、真鯛とは全く違う種類の魚なんです。このような魚を「あやかり鯛」と呼ぶこともあります。
見た目の特徴と名前の由来
マトウダイの一番印象的な特徴は、体側にある大きな黒い斑点です。この斑点は体の中央やや後方にあり、まるで的の中心のように見えます。また、背ビレの前部が長く伸びているのも特徴的で、まるで旗を立てているような見た目をしています。
口の形もユニークで、普段は引っ込んでいるのですが、餌を食べる時には筒状に前に伸びます。この様子が馬の顔に似ていることから「馬頭鯛(バトウダイ)」とも呼ばれることがあります。
体色は全体的に銀白色で、側面は平たく圧縮されています。体高が高く、横から見ると楕円形のような形をしているのも特徴です。
マトウダイの主な特徴
- 体側中央の大きな黒い斑点(的のような模様)
- 長く伸びた背ビレ
- 筒状に伸縮する口
- 平たく圧縮された体型
- 銀白色の体色
サイズと成長スピード
マトウダイは最大で70cm程度まで成長する魚ですが、成長がとても遅いことで知られています。一般的な魚と比べると、同じサイズになるまでにかなりの時間がかかるんです。
性成熟に達するまでには約4年かかり、40cm程度のサイズになるまでには10年以上もの時間が必要です。そのため、釣りで狙う際も、大型の個体に出会えるかどうかは運次第という面があります。
実際に釣れるマトウダイのサイズは、40〜50cm程度のものが多いです。30cm以下の小型のものは「ピンマト」と呼ばれ、50cmを超える大型のものは「大マト」として釣り人に喜ばれています。
マトウダイのサイズ分類
- ピンマト:30cm以下
- 標準サイズ:40〜50cm
- 大マト:50cm以上
- 最大サイズ:約70cm
マトウダイが暮らしている環境と分布
マトウダイは日本では比較的温暖な海域に生息している魚です。普段は深い海で暮らしていますが、季節によって移動することもあり、釣り人にとってはその行動パターンを理解することが大切になります。
世界的に見ると、マトウダイは大西洋から太平洋、インド洋まで幅広く分布している魚です。ヨーロッパでは「サン・ピエール」という名前で親しまれ、高級魚として扱われています。
生息地域と水深
日本でのマトウダイの分布は、本州中部から南の海域が中心となります。特に相模湾、駿河湾、東京湾、そして東シナ海にかけての海域でよく見られます。北海道や東北の冷たい海では、ほとんど見つけることができません。
普段は水深100〜400mの深い海で生活しています。海底近くを好む底生魚で、泥や砂泥の海底でじっとしていることが多いです。深海魚の仲間と言ってもいいでしょう。
ただし、産卵期になると水深50〜100m程度の比較的浅い場所まで上がってきます。この時期がマトウダイ釣りのベストシーズンとなり、岸からでも狙えるチャンスが生まれます。
マトウダイの生息環境
- 生息水深:通常100〜400m、産卵期は50〜100m
- 底質:泥底、砂泥底を好む
- 水温:温暖な海域(15〜20℃程度)
- 分布:本州中部以南の太平洋側、東シナ海
生活スタイル
マトウダイは基本的に単独で行動する魚です。群れを作ることはほとんどなく、海底近くでじっと獲物を待ち伏せするような生活をしています。動きはそれほど俊敏ではありませんが、その分エネルギーを節約して生活しているんです。
食性は魚食性が強く、小魚を主なエサとしています。アジやイワシなどの小魚のほか、エビやカニなどの甲殻類、イカやタコなどの頭足類も食べます。餌を捕る時は、普段引っ込んでいる口を素早く前に突き出して吸い込むような動作をします。
昼間は海底でじっとしていることが多く、夜間により活発に動き回る傾向があります。そのため、釣りでは夕まずめから夜にかけての時間帯が有効とされています。
マトウダイの産卵と成長過程
マトウダイの繁殖行動は、他の多くの魚と同様に季節性があります。しかし、成長が非常に遅いため、成熟までに長い時間がかかるのが特徴です。この生態を理解することで、なぜマトウダイが貴重な魚とされているのかが分かります。
産卵期のマトウダイは特に美味しいとされており、この時期を狙って釣りに出かける人も多いです。また、卵を持った雌は特に価値が高く、市場でも高値で取引されることがあります。
産卵の特徴
マトウダイの産卵期は地域によって多少異なりますが、一般的には冬から春にかけて(12月〜4月頃)となります。この時期になると、普段は深い海にいるマトウダイが浅場に接岸してきます。
産卵は分離性浮性卵という方式で行われます。つまり、卵は海中に放出されて水中を漂いながら発達するということです。一度に産む卵の数は数十万粒にも及び、そのうちのごく一部だけが成魚まで成長することができます。
産卵前の雌は卵巣が発達して腹部が膨らんでおり、この状態を「抱卵」と呼びます。抱卵したマトウダイは身に脂が乗っていて、特に美味しいとされています。
マトウダイの産卵について
- 産卵期:12月〜4月(地域差あり)
- 産卵場所:水深50〜100mの浅場
- 卵の種類:分離性浮性卵
- 産卵数:数十万粒
- 抱卵期の味:特に美味とされる
幼魚から成魚への変化
マトウダイの幼魚は成魚とはかなり異なった姿をしています。体長10cm以下の幼魚は体がより円形に近く、不規則な暗色斑が全体に散らばっています。この時期には、まだ特徴的な黒い斑点ははっきりしていません。
稚魚期には比較的浅い海で過ごし、成長とともに徐々に深い場所へと移動していきます。10〜20cm程度になると、だんだん成魚らしい体型になり、特徴的な黒い斑点も明瞭になってきます。
成魚サイズになると、水深100〜400mの深海に定着します。この頃には既に4〜5年が経過しており、やっと繁殖能力を持つようになります。このような長い成長期間があるため、乱獲には注意が必要とされています。
マトウダイの価格相場と流通事情
マトウダイは一般的なスーパーではあまり見かけない魚ですが、価格や流通について知っておくと、購入する際の参考になります。季節や産地によって価格が変動するのも特徴の一つです。
最近では通販での購入も可能になってきており、産地直送で新鮮なマトウダイを手に入れることもできるようになりました。ただし、漁獲量が限られているため、年間を通して安定した供給があるわけではありません。
市場での価格動向
マトウダイの市場価格は、サイズや季節によって大きく変動します。一般的に、産卵期前後の冬から春にかけてが最も高値になる傾向があります。この時期は身に脂が乗り、卵を持った個体も多いためです。
豊洲市場での卸売価格を見ると、冷凍のマトウダイで1kg当たり1,600円程度となっています。これは比較的高級な魚の価格帯と言えるでしょう。生鮮のものはさらに高値で取引されることが多いです。
小売店での価格は地域や店舗によって差がありますが、1kg当たり1,200〜2,100円程度が相場となっています。大型の個体や産卵期の抱卵した個体は、さらに高値で販売されることもあります。
マトウダイの価格相場(2025年現在)
- 豊洲市場卸売価格:1,628円/kg(冷凍)
- 小売価格:1,200〜2,100円/kg
- 産直通販:1,000〜1,500円/kg
- 高級個体:2,500円/kg以上の場合も
流通の特徴
マトウダイの流通量は決して多くありません。これは、漁獲量自体が限られているためです。主に定置網や底曳網での漁獲が中心で、専門に狙って獲る魚というよりは、他の魚と一緒に網にかかることが多い魚です。
そのため、市場に出回る量も不安定で、需要に対して供給が追いついていない状況が続いています。特に関東地方では人気が高く、入荷があるとすぐに売り切れてしまうことも珍しくありません。
一方、ヨーロッパでは「サン・ピエール」という名前で古くから親しまれており、フランス料理やイタリア料理の高級食材として確固たる地位を築いています。現地では日本よりもさらに高値で取引されることが多いです。
マトウダイの美味しい食べ方レシピ
マトウダイは淡白でありながら上品な旨みを持つ魚です。クセがないので、どんな調理法でも美味しく食べることができます。特に、素材の味を活かすシンプルな調理法がおすすめです。
身は白身で締まりがあり、加熱しても硬くなりにくいという特徴があります。また、骨離れが良いので食べやすく、小骨も少ないため、お子様からお年寄りまで安心して食べられる魚です。
刺身で味わう
新鮮なマトウダイが手に入ったら、まずは刺身で食べてみることをおすすめします。淡白な味わいの中に程よい旨みと微かな甘みがあり、モチモチとした独特の食感が楽しめます。
刺身にする際は、皮を引いてから切ります。身は透明感のある白色で、見た目も美しく仕上がります。わさび醤油で食べるのが基本ですが、肝が手に入った場合は肝醤油にするとさらに美味しくなります。
昆布締めにして旨みを加える方法もおすすめです。薄く切った昆布で身を挟み、2〜3時間置くことで、昆布の旨みが身に移って奥深い味わいになります。
刺身を美味しくするコツ
- 皮を丁寧に引いて、身の美しさを活かす
- 肝醤油で食べると旨みがアップ
- 昆布締めで旨みを加える
- 薄造りにして食感を楽しむ
ムニエルの定番調理
マトウダイと言えばムニエルと言われるほど、ヨーロッパでは定番の調理法です。淡白な身に程よい旨みと甘みがあるマトウダイは、バターとの相性が抜群です。
作り方は簡単で、三枚におろしたマトウダイに塩胡椒をして小麦粉をまぶし、バターで両面を焼くだけです。皮目から焼いて、皮がパリッとするまで焼くのがポイントです。
仕上げにレモンを絞り、バターソースをかければ完成です。付け合わせには、茹でた野菜やポテトがよく合います。白ワインとの相性も良いので、特別な日の料理としてもおすすめです。
煮付けや焼き魚
和食の定番である煮付けも、マトウダイの美味しさを引き出す調理法の一つです。酒、醤油、みりん、砂糖を基本とした煮汁で、じっくりと煮込みます。
マトウダイは骨から身が外れやすいので、煮付けにしても食べやすいのが魅力です。煮汁が身にしみ込んで、ご飯のおかずとしても最適です。生姜を効かせると、より深い味わいになります。
塩焼きも美味しい食べ方です。シンプルに塩を振って焼くだけですが、マトウダイの持つ自然な甘みを存分に味わうことができます。大根おろしと醤油で食べると、あっさりとして食べやすいです。
マトウダイの和食調理法
- 煮付け:醤油ベースの煮汁でじっくり煮込む
- 塩焼き:シンプルに塩を振って焼く
- 照り焼き:甘辛いタレで照りよく仕上げる
- あら煮:頭や骨も美味しく調理できる
肝の活用法
マトウダイの肝は、特に冬の時期に大きく脂が乗って絶品です。肝が手に入った場合は、ぜひ有効活用してください。肝には独特の濃厚な旨みがあり、様々な料理に使うことができます。
一番のおすすめは肝醤油です。新鮮な肝を醤油に混ぜて、刺身につけて食べます。肝の濃厚な味わいが刺身の淡白な味を引き立てて、格別の美味しさになります。
鍋に入れるのも美味しい食べ方です。肝を適当な大きさに切って、最後に鍋に加えます。肝から出る旨みが汁全体に広がって、コクのある味わいになります。
煮付けにする場合は、卵と一緒に甘辛く煮るのがおすすめです。肝の苦みと卵のまろやかさがバランス良く組み合わさって、日本酒のつまみとしても最適です。
マトウダイ釣りの道具と仕掛け
マトウダイ釣りは、深海釣りの中でも比較的手軽に楽しめる釣りの一つです。専門的な道具は必要ですが、一度揃えてしまえば長く使うことができます。また、マトウダイは食べて美味しい魚なので、釣りの楽しみと食べる楽しみの両方を味わうことができます。
船釣りが基本となりますが、産卵期には岸からでも狙うことができる場合があります。どちらの場合も、深い場所を狙うことになるので、それに適した道具選びが重要になります。
推奨タックル
マトウダイ釣りの基本は泳がせ釣りです。活きたアジやイワシを泳がせて、それを食べに来るマトウダイを狙います。そのため、泳がせ釣り用のタックルを用意する必要があります。
ロッドは、ヒラメ竿や中程度の硬さの磯竿が適しています。長さは2.4〜3.0m程度のものが使いやすいでしょう。あまり硬すぎると、マトウダイの繊細なアタリを感じ取りにくくなってしまいます。
リールは、深場を狙うためラインキャパシティの大きなスピニングリールを選びます。3000〜4000番台のリールがおすすめです。PE1〜2号のラインを200m以上巻けるものを選んでください。
マトウダイ釣り基本タックル
- ロッド:ヒラメ竿、磯竿2.4〜3.0m
- リール:スピニング3000〜4000番
- メインライン:PE1〜2号
- リーダー:フロロカーボン3〜5号
- 重り:60〜100号程度
効果的な釣り方
マトウダイ釣りの基本は泳がせ釣りですが、ジギングでも狙うことができます。泳がせ釣りでは、活きたアジやイワシを使うのが最も効果的です。マトウダイは動いている餌に反応しやすいので、餌の泳ぎを活かすことが重要です。
タナ(釣る深さ)は海底近くが基本です。マトウダイは底生魚なので、海底から1〜2m上を狙います。根掛かりが心配な場合は、捨てオモリ式の仕掛けを使うか、ウキ釣りで少し上のタナを狙うのも有効です。
ジギングの場合は、100〜200g程度のメタルジグを使います。底まで沈めた後、ゆっくりと巻き上げながらアクションを加えます。マトウダイはそれほど俊敏な魚ではないので、あまり激しいアクションは必要ありません。
マトウダイ釣りのコツ
- 活餌の泳ぎを活かす泳がせ釣りが基本
- 海底から1〜2m上のタナを狙う
- アタリは繊細なので、竿先に集中する
- 根掛かり対策に捨てオモリ式仕掛けを使用
- ジギングではゆっくりとしたアクションが効果的
まとめ
マトウダイは、独特の見た目と美味しさを併せ持つ魅力的な魚です。的のような黒い斑点と長い背ビレが特徴的で、一度見たら忘れられない印象を残します。深海に住む魚なので普段は目にする機会が少ないですが、その分特別感のある魚とも言えるでしょう。
食味については、淡白でありながら上品な旨みを持ち、様々な調理法で楽しむことができます。刺身、ムニエル、煮付け、塩焼きなど、どの食べ方でも美味しく、特に肝は絶品です。ヨーロッパで高級食材として扱われているのも納得できる味わいです。
釣りの対象魚としても面白く、泳がせ釣りやジギングで狙うことができます。成長が遅く貴重な魚でもあるので、釣れた時の喜びもひとしおです。マトウダイを知ることで、魚の世界がより豊かで興味深いものになるのではないでしょうか。
